幸水こうすい

特徴

農林省果樹試験場が1941年に‘菊水’に‘早生幸蔵’を交雑して育成した。黒斑病抵抗性で果実品質が優れていたことから，全国のおもなナシ生産都府県で特性を検討した。その結果，果実がやや小さくて結実性にも疑問の点があったものの，果実品質，とくに肉質の優良性が高く評価され，1959年に，なし農林3号として命名，登録のうえ公表された。品種名は交雑両親から1字ずつをとったものである。

成熟期は関東地方で8月中～下旬である。果形は円ないし扁円形で，わずかに条溝が見られることがある。ていあが広く深いのが特徴である。果実の大きさは通常250～300g前後であるが，最近では400g程度の果実の生産も。果皮は中間色で，ハウス栽培などでは，しばしばまだらになって外観が劣る。果肉は白色で果心が小さく，子室数が通常の品種と異なって7前後と多いのが特徴である。肉質は緻密で「二十世紀」よりも軟らかく，多汁で甘味が多い。酸味はほとんど感じられず，渋味を感じることはない。成熟が進むにつれて「幸蔵」臭といわれる特有の香気が感じられるようになる。収穫後の果実の貯蔵力は7日前後であり，早生品種としては長いほうである。収穫期は高温期にあたるが，冷蔵ではかなり長期間の貯蔵が可能である。

樹勢は中で枝の伸長力は強いほうであるが，細長くて発生密度は中位である。腋花芽の着生は「長十郎」に比べて少なく，短果枝の維持も困難な部類に属する。とくに若木時代や主枝，亜主枝の陰芽から発生する枝には腋花芽，短果枝ともに着生しにくい。幼葉は「新水」ほど強くはないが赤褐色を呈し，新梢先端の細毛は少ない。S遺伝子型はS4S5である。黒斑病抵抗性で，黒星病には「二十世紀」より弱いが「長十郎」よりは強い。胴枯病には弱い。

短果枝の着生と維持が十分ではないために，亜主枝間隔を広くとり，新梢を誘引して長果枝を育成し，腋花芽主体の生産とする。土壌への適応性は比較的狭く，とくに排水不良園では枝の充実不良や，それに伴う花芽の不足に加え，胴枯病が発生しやすい。裂果が発生することがあるが，対策は確立されていない。近年は，老木化や木材不朽菌による樹勢低下や胴枯れ症状が問題となっており，早期成園化技術を利用した改植の動向が認められる。

和梨生産の34％を占めるもっとも生産量が多い品種である。お盆時期の販売を目指すならこの品種。オールマイティーな品種として、未だに多く植えられている。