富有　ふゆう

特徴

来歴　原産地は岐阜県瑞穂市巣南居倉で，原木は小倉初衛氏の宅地内にある。富有の名は，中国の古典『礼記』の中の，「富有四海之内」に由来する。

樹性　樹姿は開張性で樹勢はやや強い。節間が長くて新梢が長い。下垂しやすいので，側枝の更新につとめる必要がある。陰芽からの新梢の発生は容易である。萌芽・展葉期はおそい。炭疽病には弱い。

着花・結実性　花はつきやすく，開花期はカキのなかではおそい。雄花は着生しない。

　単為結果性はやや低く，安定生産のためには受粉が必要である。種子形成力は高く，一般に昆虫による受粉に頼っている場合が多い。受粉がある程度行なわれれば，早期落果は少ない。後期落果性もなく，豊産性である。しかし，結実過多になると，翌年の花が減って隔年結果するため，摘蕾・摘果によって適正量に着果を制限することが重要である。大果良品生産のためには10a当たり2～2.5t程度が標準である。7月中下旬の摘果を葉果比20で行ない，その1.5倍程度の花を残す摘蕾を行なうとすれば，1新梢1蕾としたうえでさらに摘蕾し，葉蕾比13程度にするとよい。

果実特性　晩生の代表品種で完全甘ガキであり，一般に11月中下旬が収穫期である。果実の大きさは平均280g程度に栽培できる。日持ち性が長く，一部は氷温で1～3か月冷蔵貯蔵される。果皮は赤く，果頂部のカラーチャート値6程度が収穫適期である（安芸津）。果形は整っており，玉揃いも良好である。糖度は中程度で，一般に15～16度程度だが，果汁が多く，肉質も本来硬くなく，食味が良好である。肉質は完全甘ガキのなかでは粗いほうだが，粉質化しない。

　脱渋性が優れており，比較的温度の低い地方でも脱渋するので完全甘ガキのなかでは地域適応性が広い品種である。果汁が多くて渋抜けがよいことから家庭果樹としては硬い未熟の時期から食べられ，硬い品種としてのイメージがあるが，完熟した果実はそうではない。

　へたすき性がややあるため，大きなへたの花を残すとともに，スムーズに肥大させる水管理が重要である。汚損果の発生は少ない。

枝変わり品種　1952年に種苗名称登録された松本早生富有は，富有の枝変わり品種であり，富有よりやや果形が扁平で，富有より約2週間熟期が早い。そして，富有より樹勢がやや弱く，収量が上がりにくい。また，緑斑症などの生理障害も発生しやすい。

　奈良県で松本早生富有として購入した苗木のなかから松本早生富有よりも熟期が早い変異樹が発見され，1986年に上西早生として品種登録された。上西早生は松本早生富有より1週間程度熟期が早い（安芸津）。

　また，富有の大果枝変わり品種として，すなみが1988年に品種登録された。すなみは平均果実重320g程度で栽培でき，結実性も富有とほぼ同様だが，果底部に小さい座（果底部に生じる凹凸の文様）ができやすい。

　生産状況　適地は，北九州から中四国，近畿・東海を経て関東南部に至るベルト地帯であり，主産県は，福岡・岐阜・奈良・和歌山県である。それより南部の地帯では温度が高く，糖度，果実肥大，着色が劣るほか，多雨と台風のため栽培がむずかしくなる。また，これより冷涼な地方では脱渋が不完全になるとともに十分に成熟できない。

　2004年の統計では，富有5,390ha，松本早生富有1,160ha，上西早生86ha，すなみ33haの栽培がある。

甘柿生産の大部分を占める主要品種。適地は北九州から四国、近畿、東海を経て関東南部に至る。これより冷涼な地方では脱渋が不完全となる。