長十郎ちょうじゅうろう

特徴

1895年ごろに，神奈川県川崎市大師河原の当麻辰次郎氏のナシ園において偶発実生として発見された。当麻氏の屋号が長十郎であったことから「長十郎」と呼ばれるようになった。当時は黒星病の発生に悩まされていたが，本品種がそのころ多く栽培されていた「幸蔵」に比べて黒星病に強く，熟期や果実品質，収量なども優れていたために「二十世紀」とともにその後のナシ産業を支える2大品種の一つとなった。しかし，昭和50年代後半から急激に栽培が減少し，現在ではその大部分が「豊水」に置き換わっている。

成熟期は関東地方で8月下旬～9月中旬で，収穫期間が長いが，これは樹内での果実の成熟にバラツキが大きいためである。果実は円形ないし扁円形で，果皮は赤褐色である。平均果重は250～300gが普通であり，「幸水」「豊水」に比べて肉質が粗いが，寒冷地産の果実は比較的軟らかい。全般に現在の主要品種のなかでは品質良好とはいえないが，甘味が多くて多汁であり，特有の風味をもっている。収穫後の果実の日持ちは短い。

樹勢は中ないしやや強い程度で，樹冠の拡大は「二十世紀」に比べておそい。枝の分岐角度が小さくて裂けやすい。腋花芽，短果枝ともに着生が容易であるが，樹齢が進むにつれて短果枝の維持が困難になる。S遺伝子型はS2S3で主要品種とはいずれも交雑和合性であり，開花期は「二十世紀」とほぼ同じで，花粉量も多いことから他品種の授粉樹としても利用される。開花期終了後の生理落果が多い性質をもっている。黒斑病抵抗性であるが，黒星病にはやや弱いほうである。えそ斑点病に対しては病徴非発現性である。

棚面に誘引した枝はほとんどが腋花芽になるため，先端を立てて強く伸長させる。結果過多や乾燥などによって果実肥大が不良な場合には，果実が硬くて肉質も粗くなる。黒星病に対しては秋季防除を徹底し，翌春の発病を抑制するとその後の防除効果が高まる。排水不良園などでは石ナシ症状が発生しやすい。

梨農家では耐病性抜群の受粉用品種。家庭園芸用としては、収穫期が長く、家庭で長い期間収穫が楽しめる生食用品種。黒斑病に抵抗性がある。昔懐かしいあの味を是非。