豊水ほうすい

特徴

農林省果樹試験場が1954年にリ-14（菊水×八雲）に‘八雲’を交雑して育成したと発表されていた。しかし，この組合わせは青ナシ同士の交配であり，赤ナシを生じることは疑問であることからその後も確認作業が続けられ，1982年の園芸学会において交雑両親は不詳と訂正する発表が行なわれた。系統適応性試験の結果，品質優秀な中生の赤ナシであることが確認され，1972年に，なし農林8号として命名，登録された。近年になって遺伝子による親子関係に関する解析が行なわれ，‘幸水’とイ-33（ナシ平塚1号）の交雑から生じたことがあきらかとなった。

成熟期は9月中旬で，「長十郎」とほぼ同時期である。果実は円形で，若木では条溝が発生しやすいが，成木になるにつれて目立たなくなる。果梗はやや細いが，肉梗は生じない。果皮は赤褐色で，果面はやや粗く，コルクの発達が多い。大きい果点がやや粗に分布する。平均重が400g程度になる。果心の上部に隙間を生じる果実が多い。果肉は白色で，硬度は「幸水」と同程度である。甘味は高く，酸味は「二十世紀」よりやや強く感じるが，多汁で食味が濃厚であり，渋味，香気は感じられない。果実の日持ち性は良好で，心腐れの発生はない。年次によってみつ症が多発することがあり，発生しやすい環境要因として，7月中～下旬の気温が低いことがあげられる。また，満開1か月前後の高温が発生を助長することが経験的に知られている。果実の日持ち性は10日程度である。

樹勢はやや強く，枝の発生も多い。枝の伸長は旺盛であるが，先端は捻転しやすい。短果枝の着生は容易で，腋花芽の着生も多い。幼葉は淡褐色で毛茸は少なく，成葉は長楕円形でやや大きい。開花期は「長十郎」「新水」と同時期で，S遺伝子 型はS3S5であり，主要な栽培品種とは交雑和合性である。黒斑病抵抗性で，黒星病にも「長十郎」より強く，えそ斑点病に対しては病徴非発現性である。

新梢先端が捻転しやすいので，とくに骨格枝の育成中は先端の誘引を確実に行なう。果実のわりに果梗が細めで，軸折れを生じることがあるので，摘果のさいに注意する。早どりでは酸味が強く感じられるが，過熟になるほどみつ症が発生しやすくなるので，収穫適期を慎重に判断する必要がある。

赤梨の定番品種。主要な栽培品種と交雑和合性。病気に強く、低農薬栽培が可能である。今でも「幸水」に続き2番目に多く植えつけられる品種。